2013年3月25日月曜日

ヒーロー症候群 in U.S.A

先日、『ゴッド・ブレス・アメリカ』という映画のDVDを観ました。
ヒーローに憧れたおっさんと少女のおバカなサブカル映画かなと思いきや、意外や意外、アメリカ社会に対しての批判がふんだんに込められた痛切なものでした。

以下、ほんの少しストーリーを・・・

上司からの突然のクビの宣告。

『君はクビだ』

『冗談でしょ?何で!?』

『受付の子との関係は・・・?』

『普通に仲が良い程度で・・・1度食事に行きましたけど・・・』

『花を送ったろ?何で花なんて送った?』

『彼女が元気なさそうだったから。』

『住所はどこで調べた?』

『会社で。』

『違法だろ。で、彼女はセクハラを訴えてきた。』

ちょっとファット(おデブ)な受付嬢がおどおどしている姿。

こうして11年勤めた会社をあっけなくクビになった主人公である普通のおっさん。

ひどい頭痛に襲われ病院で診察すると・・・
悪性脳腫瘍、末期の癌でもう助かる見込みはないとわかる。

妻とは別れ、一人娘は妻と共に新しい父親とうまくやっている。

話す相手もなく、絶望の中、TVをつけ、ベッドに横たわる。

ひどい頭痛に辟易しながら、生きる気力をなくした彼は・・・

口中に、銃をねじこむ。

ぼんやりとする意識の中、彼の目と耳が捉えたのは

『黒人野郎が大統領だぜ!!』

『ホームレスに放火した若者が動画を投稿』

聞こえてきたのは・・・刺激的な話題で人々を煽るTV番組だった。

ひたすら煽り続けて、刺激を与え続けて、そうしていつの間にか
人への思いやりなど全くなくなってしまった番組制作側と視聴者達。

     この世界は いつの間に---

     こんなにも腐ってしまったのか---

続けて番組が始まる

『私はクロエ、可愛くて人気者の高校生。』

わがままし放題のアメリカ人高校生のドキュメント!
誕生日プレゼントが〝キャデラック″じゃなかった事を怒りまくって
父親にF◎◎KF◎◎K言いまくり。
同級生達がインタビューに答える。

『彼女は最高!金持ちで可愛い!!』

最高の彼女が父親に言う

『パパなんてクソよ!!』

父親が言う

『彼女を不愉快にしてしまったのは私の責任だ・・・』

      絶望していた彼が口から銃を出す---

      死ぬべきバカは・・・俺じゃない!!!!

F◎◎Kな現実におっさんがブチ切れた。

きれたらおっさん超すごい。

TVで親にファックファック言ってた女子高校生をまずは・・・バン!!

目撃者の女子高生(撃たれた女子の同級生)は、おじさんに『最高最高!』ついてくる。

ここで中年男と高校性のロードムービースタート。

映画館にて・・・〝私語しまくり″〝携帯で喋りまくり″な上に
おっさんに対してポップコーン投げてきたヤツらを・・・バン!!バン!バン!

人種差別主義者に・・・バン!!

勘違いセレブに・・・バン!

下卑たTVに出るヤツ、作るやつ・・・バン!バン!!

駐車マナーの悪いやつ・・・バン!!


      世の中本当にバカだらけ---
      もっとたくさん死ぬべき人間がいるはずだ---


おっさんと女子高生の旅は終わらない!

      みんなまとめてぶち殺せ!!

      世直しロードショー全米縦断!!


と言ったストーリーに仕上がってます。

映画の良し悪しはさておいて・・・

見終わった後、細君が一言

『なまはげ』

『ん?』

『いや、このおっさん、なまはげだね』

『あぁ、東北のね。あぁ、そうね。アメリカらしいね。自らなまはげ』

『そうそう。歴史浅いからなまはげとかの民間伝承とか少ないじゃない?
 だから市民的なヒーローを求める気持ちが強いと言うか・・・』

『ふんふん、ちょっとそこんとこ詳しく言ってみて』

 
『子供達に伝えるべき倫理、道徳がイギリスやスペインのものであってはならない以上、
 独立精神、開拓者精神でいくと自らが世直しヒーローになるしかないと言うか・・・雑だけどね。』

ふむふむ、いやいや、コレはとても面白いご意見。で今日のお題はコレです。

“開拓者精神に始まる市民的ヒーロー”

細君の言った事を私もニューヨークにいる時、何度も肌で感じておりました。
一番の極めつけは、当時花形だった
『スペースシャトル開発』1号機が無事に地球に帰還したあくる日の
NEWYORK POSTのドデカイ見出し。

        『俺たちはソ連の100年先を行ったぜ!』 

地下鉄のニューススタンドでこの新聞見た時

        『ダメだ、この国、絶対戦争するわ』と思いました。

歴史が浅い上に、独立戦争以前の西洋の歴史はルーツとして認めない。
だってせっかくそこから独立したんだから。
ヨーロッパなんてくそくらえ!
伝統?ファック!
俺らにあるのは進化だけだぜ!ってな若気の至りが未だに続く
若く、活気溢れ、そして若いゆえに神経症にかかっているアメリカ。

過去を抹消した以上、先に進むしかこの国には未来なんてものはない。
温故知新なんてものはまだまだ甘い!
そんな事考えてるより、刺激と邁進!

そうして、戦争してみたり、たくさん原発輸出してみたり、宇宙開発してみたり、
スパイたくさん養成したり・・・
とにかくあらゆるジャンルで世界のトップへの君臨を目論み続けている。

進み続けていないと、人種のるつぼのアメリカはまとまらないからでしょうね。

だから大統領や政治家はその瞬間、瞬間、ヒーローでなくてはならないんです。

だってアメリカ国民の多くは(勿論、アメリカにも他国同様=日本同様マイノリティだけど、
賢者達はたくさんいますよ)自分のストレスを発散してくれるモデルタイプのヒーローを
求めているハングリーモンスターだから。

『お腹減った、お腹減った。次は何食べればいいの?』

『えっと・・・じゃぁ、戦争食べる?』

『おいしぃ~!!・・・あれ、お腹痛くなってきた・・・痛い時は何食べればいいの・・?』

『えっと・・・じゃぁ、黒人大統領とか食べる?』

『黒いものって身体に良いんだよね~!!苦っ!!これ焦げてない?』

ってな具合にハングリーモンスターはいつまでたっても満腹になりません。

話しが大きくなって長くなってきました。
ここらでひとまとめ。。。

アメリカは歴史や伝統のある国に比べ、まだまだ、若いこれからの国です。

国も人と同じでそれだけ年を重ねてくると、
その歴史の中に人々の理想となるような偉大な人間を何人も排出していきます。
日本で言えば戦国武将とか、幕末の人達とか、実在の人は元より、
各民族の神話や民話の中にまでアーキータイプは存在しています。
そして現代の私達は、自分の生活、悩みに応じて、英雄やヒーローをチョイスして
ハングリーと感じた時に好きな物を箸でつまべばイイ。

がしかし、アメリカの様に歳が若いと、まだまだ多くの人にとってフォークでつまみやすい
英雄やヒーローが足りない。
もしくは、あまりに最近の人物なので、ゴシップネタで地に落とされてしまう。
そうすると、遠い存在でなきゃいけないはずの英雄やヒーローに
共感など出来なくなってしまう=便利で美味しい食材ではなくなってしまうのです。

だから、次から次へとヒーローを作らないと、国民の四割が肥満の国のお腹は満たされず、
挙句の果てはヒーローではなく、普通の市民が、苦し紛れにヒーローにならざるを得ない
状況に陥ってしまう・・・

思えば名作『タクシードライバー』『狼よさらば』もこの主題でした。
きっとアメリカの人達の大きなテーマの一つなんでしょうね。

・・・おさらい・・・

今回の映画、ただのヒーローものではなく、
自分より死ぬべき人間がいて、誰も手をくださずにいるから
世の中どんどんひどくなる・・・と考えたおっさんが、一人撃ったら
世直し運動に歯止めがきかなくなったというお話。

アメリカ国家的神経症は、ヒーローを求めるのではなく、
市民からの病んだヒーローを排出してしまうのだ・・・

という社会風刺のサブカル映画でした。

『俺達に明日はない』
『バッファロー66』
様々な映画の背景が見え隠れしつつ、台詞は少々観念的でしたが・・・、

演者側と言えど、TVに関わってきた人間として、
思うところは多々あったりと、色々な意味で楽しめた映画でした。

ただ・・・そんなにおすすめという訳ではありません。









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