T君、もぞもぞと暗い中で鼻紙を鼻に突っ込んでおりました。
『うん?何してんだ?』
T『鼻血が、鼻血が出て止まらないんです』
『何?もう本番だぞ。鼻紙突っ込んで黒く塗っておけッ!』
T『えっ・・・・・・』
T君は初舞台で興奮がピークに達したんでしょう、鼻血ブーッになった訳です。
私もかつて鼻血ブー経験が二回程あります。
1、ニューヨーク市立大学心理学科にて、必死で勉強した私の脳はキャパを超えビット数が飛び、ブー。
2、演劇集団 円 時代、全国ツアーの折り、出演、バラシ、移動、立て込み、出演・・・
というノリ打ち公演の折・・・ブー。
大体、ガタイのイイ私はいつも一番キツイ、力のいる裏の仕事をさせられ(劇団の若手は大体裏の仕事をさせられます)その時もトラックの上で、荷積み係となっていました。
炎天下、ジリジリと照りつける、夏の日差し、舞台のパネルの上に赤い鮮血が一滴二滴。
それにも気づかずに作業に没頭している私。(ニューヨーク時代も同様。自分では気づかず、英語の医学書が真赤に染まっていく事で初めてブーだと気づいた)
先輩が興奮した様子で
『オイ、樋口!オイッ!おまえ鼻血出てるぞ!鼻血が垂れてるぞッ!
口の周りが血だらけになってるぞッ!』
その後、二三日、その鼻血はいっこうに止まらず、それでも舞台に出なくてはならず、私の取った苦肉の策は、鼻紙を鼻腔の奥まで突っ込み、穴から見えそうな所をマジックで黒く塗る事。
出しモノは W・シェイクスピア 『リア王』
伝令役の私に演出家は『この舞台で一番大きな声をだせっ!』ときつくご指示。片方しか空いてない穴で必死で空気を吸い込み、叫びに叫びました。
気がかりなのは鼻に突っ込んだ鼻紙。いつバカでかい、超特大の鼻くそが飛び出すかヒヤヒヤしながら演技していました。
幸い、特大鼻くそは、カーテンコール後おとなしく便所に流れていきました。
そんな訳で、今日のT君も『黒く塗りつぶした鼻紙』を上演後、劇場の便所に流している事でしょう。
役者って嫌な職業だなぁ。
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